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新英語教育研究会神奈川支部HP

新英語教育研究会神奈川支部HP

★1998 津田 正さん

■2月例会報告 1998年2月21日 大倉山記念館にて 参加者:21名
●座談会:「The Seven-year Sketch -  『現代英語教育』の7年間」
               津田 正さん(『現代英語教育』編集長)
◆ 『現代英語教育』(研究社)編集長の津田正さん[2002年現在は「英語青年」編集長]をお迎えして、英語教育誌編集に携わった方の眼で見た英語教育の問題点・改善点を参加者とともにざっくばらんに話し合いました。

(1) 雑誌について
津田さんが自問自答(!)して下さった「雑誌作りのQ&A」
●Q:読者は雑誌のどこから読むものか?
 A:後ろから読む。(今月の行事などのインフォメーション→書評)
●Q:読者は記事のどこを面白いと感じて、読もうと思うのか?
 A:読者が「読んでおもしろい」と思うのは、「知っているから」である。(コミュニケーションは基本的に「知っているもの同士」の間で成立する。有名人や英語業界の著名人が書いた記事は読者との距離が近い。)ということは「知っている先生の書いた記事」などを載せると売れる。
●Q:特集記事のタイトルの付け方は?
 A:教師の口癖をタイトルにすると売れる!
(a) 津田氏「どうして先生は雑誌を読まないんですか?」
 A先生「うちは、英語教育以前の問題だからね…」⇒「英語教育以前の問題」(94年7月号)
(b) 夏休み前のB先生の口癖 ⇒「英語をたくさん読ませたい」(93年4月号)
(c) C先生の口癖 ⇒「使える教材が欲しい!」(95年1月号)
        ⇒「生徒に読ませたい教材」(96年4月号)?大ヒット!
[?先生の口癖ではなかったせいか(?)内容が良かったが「多読プログラムのすすめ」(94年4月号)は売れなかったとのこと。「生徒に~させたい」という教師の言葉の裏には「自分は~しない」という怠慢が隠れているという、津田さんのご指摘は耳が痛かったですね…]
●Q:おもしろい記事を書かせるコツは? 今までの中で好きな記事は?
 A:「教案をつくりながら、横にいる人に説明するつもりで」「生徒の作品にキャプションをつけるつもりで」と注文するとうまくかける。特に好きなのは、岩本京子先生の「生徒の作品で語る私の授業」(98年3月号)。「言語活動成功の秘訣」(94年11月号)も、生徒の気持ちが見える実践の記事になっている。無理に楽しくするのではなく、「生徒にここちよく話させる」「これだとあの生徒が困らないかな」と配慮している姿勢が好き。

(2) 英語教育への提言
●「自己表現=その人らしさがにじみでる表現活動」
 自己表現イコール自分のことを話す・書く、というのはマチガイなのでは。例えば、自己紹介で「私は~」で終始すると、スピーチに対して質問も出にくいが、ある実践で「私は曙だ」という設定で「ハワイ出身です」などのスピーチした生徒に残りの生徒が「芸能レポーター」として「今度の場所では優勝できますか?」「Aさんと結婚しますか?」と質問もたくさん出た。また、夏休みのことを書くのに「うそ、書いてもいいよ」と言えば、生徒は想像力を働かせ、本当は行っていないが「アメリカに行った」と書くこともでき、筆が進む。
 自分とは「自らを分ける」ということであり、私たちは「息子」「会社員」などの役を演じて生きている。「さあ、あなたの考えを言って下さい」と生徒に迫ってもダメだし、生徒もつらいのではないかナーと思う。シミュレーションをするなど、微妙な距離を取ることによって逆説的に本当の自分が表現できる。他のことをやらせて自分らしさを出させるのが「表現」なのだと思う。ユーモアを論じた本ほど面白くないものはない、と言われるが、ユーモア、自分らしさなどというものは、ふっと湧いてくるものだ。
●「良い教材はprimitiveなもののはずである」
例えば、詩の実践ならば、冊子にしてそのまま終わりにするのではなく、お互いの書いたものを評価し合って、shareすることが必要。生徒の知っている人(生徒、教師やAET)の書いたものこそ、生きた教材である。読む向こうに「ぬくもり」を感じる教材がよい。
●「『これだ!』と自分が発掘した思いが教材にあると違ってくる」
伴先生からキング牧師の演説の話を伺ったとき、キング牧師がリンカーンの銅像を背景にして演説していて、歴史を背負っていることを象徴している、ということだった。さすが、思い入れのある人は目の付け所が違うと感心した。(?キング牧師やチャップリンなど新英研の教材は、単純に良いからやる、というのではダメ。それは、教師自身が教材への思いに欠けている場合が多いからである、という主旨のことを津田さんはおっしゃっていました。)

●「問題を解決できる能力を身につけさせる」
ある先生は、ルクソールをラクダに乗って観光していて、高い料金を払わなかったのでラクダを揺らす嫌がらせをされたという自分の経験から、repair workあるいはconflict managementといわれる「問題が生じたときにどうやって解決するか」といった視点で英語を指導する必要性を感じ、実践している。日本の考え方は(トラブルがあるとは前提しない)「転ばぬ先の杖」ではあるが、実際にトラブルを解決できる力を指導する必要もあるのではないか。

(3) 英語教師への提言
●「いつでも勉強している姿勢を持って欲しい」
ある先生は生徒に1冊課題を出すと自分は2冊読んでいた。自分のできないことは要求しない。
●「バランス感覚を大事にして欲しい」
「欧米一辺倒」だったかと思うと「アジア・アフリカ」をやりはじめる、あるいは「買い物英語のような日常会話」から(「人間というものは、自分をバカとは思いたくない」ので、急に難しいものをやりたくなって)「思想」「社会」を扱う、などのように、激しく左右に振れてしまい「中間」がない。個人の中でもバランスを取って欲しい。
●「批判を保障する場、若い人が発言できる場を!」
教師同士で授業を見せあったりしても「良かったです」で終わってしまっては、意味がない。(?参加者の中から「授業を見せ合うのをいやがる教師も多い」という話も出ました)
●英語教師は「ツライ職業である」「楽しそうにしていることが大切」
英語教師というのは、簡単な英文を書いたとしても(ネイティブではないので)「この文章、本当にあっているのかな?」と確信が持てない、辛い職業だな、と端から見て思う。また、ある先生の授業を参観したとき、その先生がとにかく楽しそうだったのが印象的だった。

(4) 津田さんの視点
●「世の中で紋切り型になっているものは何か?」という問題設定
例えば「英米中心ではなく、アジアアフリカに目を向ける」という紋切り型がある。それ自体はOK。しかし「英米のことを本当は知っているのか?」という視点で見ると、例えば「ウェールズの話はよく取り上げられるがスコットランドは出てこない」「アメリカにいる先住民の話は出てくるが(同じくアメリカにいる)ユダヤ人・ヒスパニック・日本人の話は出てこない」。また、アジアのことについて私たちはよく知らない。「アウンサンスーチー女史の名字は?」というと、実はミャンマーでは名字の区別を持たない。
●「技術VS思想」で、どっちが大事というのではなく、どちらも大事。
「ショッピングと演説」のような両極端で「あいだ」がズボッとない。二律背反ではなく、おおらかにできないかなぁー。
(今回の津田さんのお話の中には文意を明確にするため加筆してあります。もしも誤解が生じました場合、文責は和田にあります。お許し下さい)

■参加者から出された感想
 □編集者らしい批判精神にあふれた観点が「(1) 典型教材」「(2) 自己表現」などに貫かれていた。(1)については、1人1人が工夫して取り入れていると思う。でなければマネして失敗となることだろう。(2)については、素朴な「自己表現」だけではなく多様な工夫も大切だと思い、参考になった。いずれにしても1人1人が実存をかけて(?)消化し創造することが重要ですね(共感)。
 □津田さんをお見かけしたことはありましたが初めてお話をうかがいました。貴重な機会をありがとうございました。
 □今回うかがえて本当に感謝いたします。津田さんのファンになってしまいました。最近達人セミナーも知り、喜んでいます。
 □たいへん印象的であった。
 □『現代英語教育』を読んでいなかったのですが、新英研にはないきめ細やかさがあると思った。「受験教育のイメージ」などは、さっそく読みたいし、私の悩みに答えてもらえるかもしれない。(「津田さんって英語の先生より、いろいろ他の授業を見ているから知ってるネ」って、ちゃかしちゃいけないかな? わが校も授業を見せ合わなくては…)
 □雑誌の編集者から生の声、感想を聞く機会をもててよかった。7年間の84の特集名で、とくに反応があったテーマについてくわしく知りたいと思った。
 □最初からお話を伺えずにとても残念でしたが、雑誌編集にたずさわってきた苦労・裏話、どういう視点を大切にして雑誌を作ってきたのかが垣間みられてよかったと思う。
 □雑誌を作る立場からの思いが率直に語られて面白かった。「脱英米」の話についてですが、いろいろなアメリカを私たちも勉強して、生徒に提示していく必要があると感じました。
 □「特集のみつけ方」は生徒の関心をみつけるのに似ていると思い、参考になりました。All-round playerになるか、Specialistになるかはどちらも難しい。生徒の中から見つけることがないといけない。新しいこと、共感を求めていたい。
 □今後の『新英語教育』作成への指針を教えていただきました。こういった形でお話を聞けて感謝しております。
 □普段何も考えもせず教科書に沿って教えているので、今回「こんなことを思いながら教えて欲しい」とか、教科書の内容とか色々お話の中で「うっ」と思うことがたびたびありました。雑誌のタイトルで何が売れたかという話はとても面白かったです。「~させたい」は確かに私たちの合い言葉ですね。
 □元同僚1名+同僚2名と参加しました。編集者という立場からみた「英語教育あれこれ」という内容でなかなか興味深いレポートでした。「新英研」への辛口のコメントも参考になりましたし、共感するところもありました。津田さんがおっしゃった「英語教師は英語教師以上でも以下でもない」という言葉が印象的でした。
 □はじめて津田さんにお目にかかりましたが、あまりにお若い方でおどろきました[自分の視点の低さ(=視野の狭さ)と、年ばかりとっていくことに、あせっています、このごろ。]私たち一英語教員の何倍もの視野をお持ちの方の口から、思いがけず、私たちの思いを代弁して下さっているような言葉をきいて、慰められました。「ことがら」と「ひとがら」を区別できない日本の土壌についての話、全く共感です。
 □英語教育誌の編集長の方、というともっと堅いイメージでした(すみません、偏見でした)。前向きな批判のしかたを研究すべし…、なるほど、考えなくてはいけないことですね。


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